ロボティクス

Humanoid Actuation Report

2025-2026 Analysis

現代ヒューマノイドロボットにおける
アクチュエーション技術の包括的解析

コンポーネント仕様、サプライチェーン動態、および性能工学に関する詳細報告書

1. 序論:身体性AIの運動学的基盤と「電気機械的収束」

人型ロボット(ヒューマノイド)が研究室の好奇心の対象から、実用的な産業労働力へと移行する現在のフェーズにおいて、その成否を握るのは人工知能(AI)の進化だけではない。むしろ、物理的な作業を遂行するための「筋肉」にあたるメカトロニクス、すなわちアクチュエーター(駆動装置)の成熟が決定的な要因となっている。2025年から2026年にかけてのロボット工学の潮流は、かつてBoston Dynamicsの初期モデルが象徴していた油圧駆動から、電気機械式アクチュエーションへの完全な移行、いわば「電気機械的収束(Electromechanical Convergence)」によって定義される。

この技術的転換は、工場環境における静音性、エネルギー効率、およびメンテナンスの簡素化という実需に基づいている。しかし、この電動化のコンセンサスの中で、エンジニアリング哲学は大きく二つの陣営に分岐している。

  • 剛性制御(Rigid Control):TeslaのOptimusに代表される、位置制御の剛性と高出力を重視し、遊星ローラースクリュー(Planetary Roller Screw)などの直動機構や高減速比のギアを用いるアプローチ。
  • 準直動駆動(Quasi-Direct Drive: QDD):Unitreeや学術研究界が推進する、低減速比の遊星ギアと高トルクモーターを組み合わせ、バックドライバビリティ(逆駆動性)と衝撃吸収性を重視するアプローチ。

本報告書は、世界をリードするヒューマノイドプラットフォーム――Tesla Optimus、Boston Dynamics Atlas(電動)、Unitree H1/G1、Figure 02、Fourier GR-1、Xiaomi CyberOne、Agility Robotics Digit――を対象に、その関節駆動システムを構成するモーターおよび減速機の種類、採用メーカー、型式、性能を徹底的に調査・分析したものである。

2. コア技術アーキテクチャの分類と定義

各ロボットの具体的なコンポーネント選定を論じる前に、現代のヒューマノイド駆動系を構成する技術的分類を定義する。アクチュエーターは、一般にモーター、減速機、センサー、コントローラーの統合モジュールとして設計される。

2.1 プライムムーバー:電気モーターのトポロジー

産業用ロボットアームで使用される重厚なハウジング付きサーボモーターとは異なり、ヒューマノイドでは重量制約が極めて厳しいため、フレームレス・トルクモーター(Frameless Torque Motor)が標準となっている。

  • ラジアルフラックスモーター(Radial Flux Motor): 磁束が回転軸に対して垂直方向に流れる、最も一般的な構成。UnitreeのM107シリーズやTeslaの回転関節など、多くのプラットフォームで採用。製造プロセスが確立されており、コストと性能のバランスに優れる。
  • アキシャルフラックスモーター(Axial Flux Motor): 磁束が回転軸と平行に流れる。「パンケーキ型」とも呼ばれ、薄型で高いトルク密度を実現する。次世代機の股関節など、幅の制約が厳しい部位での採用が増加傾向にあるが、製造難易度は高い。
重要な性能指標
ここでの決定的な指標はトルク密度(Nm/kg)である。最新のヒューマノイド用モーターは、四肢の慣性モーメントを最小化するため、ピーク時で20~30 Nm/kg以上の密度を目指して設計されている。

2.2 変速と増幅:精密減速機の種類

電気モーターは高速回転・低トルクであるため、ロボットの関節運動に必要な低速・高トルクに変換するための減速機(Reducer)が不可欠である。

波動歯車装置(ハーモニックドライブ)

楕円形のウェーブ・ジェネレータがフレクスプラインを変形させて噛み合わせる。バックラッシュ(ガタ)がゼロで極めて小型軽量だが、衝撃荷重に弱く歯飛びのリスクがある。上半身の精密動作に用いられる。

遊星歯車減速機(Planetary Gearbox)

中心の太陽歯車が複数の遊星歯車を駆動する。高効率(95%以上)、高い耐衝撃性、低コスト。バックラッシュが存在するが、低減速比(5:1〜10:1)で用いることでQDD方式を実現し、脚部の衝撃吸収に適する。

サイクロイド減速機(RV減速機)

偏心運動する曲線板を用いる。極めて高い剛性と耐衝撃性を持つが、重く大きい。大型ヒューマノイドの股関節や膝(Digit、Atlas)の主要関節に用いられる。

遊星ローラースクリュー(Planetary Roller Screw)

回転運動を直動(リニア)運動に変換する。ボールねじに似ているが、ローラーを使用することで接触点を増やし、圧倒的な推力密度と耐衝撃性を実現。Tesla Optimusの下半身で採用されている。

3. プラットフォーム別詳細分析:仕様とサプライチェーン

3.1 Tesla Optimus (Gen 2)

設計哲学: 産業用ハイブリッドと垂直統合。EV製造で培ったモーター技術を応用し、下半身にリニアアクチュエーター(直動駆動)を広範に採用している点が特徴。

部位駆動方式減速・伝達機構モーター型式推定スペックサプライヤー・備考
下半身リニア反転遊星ローラースクリューフレームレスPMSM推力: ~8,000N製造はBest PrecisionやHengli等の中国トップメーカー、統合はSanhua等が担当と推測。
上半身回転波動歯車装置フレームレスPMSM減速比: 50:1 – 100:1プロトタイプはHDS製、量産はLeaderdrive等への切り替えか内製化。
手首/手ワイヤ駆動超小型遊星/ウォームギアマイクロモーター11自由度MaxonやMoons’ Electricが有力候補。
詳細分析:ローラースクリューの採用理由
Teslaが膝や股関節に遊星ローラースクリューを採用した理由は、その圧倒的な「耐衝撃性」にある。歩行時の数千ニュートンの衝撃に対し、点接触のボールねじでは耐えられないが、多数のローラーが線接触するこの機構は耐えうる。サプライチェーンでは、これまでニッチだったこの部品の生産能力を、Sanhuaなどのティア1を通じて中国メーカーと連携し、急速に拡大させている。

3.2 Unitree Robotics H1 & G1

設計哲学: 高トルク密度による準直動駆動 (QDD)。四脚ロボットの技術を応用し、「関節モーター」自体を製品化するほど内製化が進んでいる。

部位機構モーター型式スペックサプライヤー・備考
股/膝 (H1)一段遊星歯車Unitree M107最大トルク: 360Nm完全内製。高トルク密度、中空シャフト構造。
全身 (G1)遊星/波動混載Unitree Customトルク: 120Nm量産価格1.6万ドルを目指したコストダウンモデル。

詳細分析: Unitree H1がバク転を実現できるのは、M107モーターと低減速比ギアの組み合わせによる高いバックドライバビリティ(衝撃をモーターへ逃がす能力)のおかげである。精密な位置決めよりも、ダイナミクスと堅牢性を優先した設計思想だ。

3.3 Boston Dynamics Atlas (All Electric)

設計哲学: 重厚長大からの脱却と自動車グレードの信頼性。現代自動車グループ傘下で、油圧から電動へ完全移行し、商用化を目指す。

部位機構スペックサプライヤー・備考
全身高剛性減速機 (Cycloidal?)可搬: 50kg, 360度回転Hyundai Mobisとの提携によりアクチュエーターを共同開発・供給。
主要関節サイクロイド相当高衝撃対応産業用アーム技術を小型化し、自動車産業の量産規模を持ち込んでいる。

詳細分析: Hyundai Mobisがサプライヤーである点が重要。既存のロボット部品メーカー市場に、自動車ティア1の品質と量産力が参入したことを意味する。360度回転する関節は、高度なスリップリング技術と高出力密度設計の証である。

3.4 Fourier Intelligence GR-1

設計哲学: リハビリ工学からの応用。外骨格ロボットの技術を活かし、高トルク・低速動作に強みを持つ。

部位機構モータースペック備考
脚部FSA (Fourier Smart Actuator)自社製300Nm, 可搬50kgLeaderdrive製の波動歯車や遊星ギアを採用し、コスト競争力を確保。

詳細分析: 自重55kgに対し可搬50kgという驚異的な比率を実現。中国のトップギアメーカーLeaderdriveの部品を活用することで、高性能と低コストを両立している。

3.5 Figure AI – Figure 02

設計哲学: 完全統合型モノコックデザイン。配線を露出させない洗練されたデザインと、工場での安全性を重視。

詳細分析: 「統合配線」は、アクチュエーターのケース自体がロボットの外骨格を兼ねていることを示唆する。放熱性に優れるが、修理難易度は高い。手部にはMoons’ Electric等の精密モーターが使われている可能性が高い。

3.6 その他主要プレイヤー

Xiaomi CyberOne

民生用電子機器のスケールメリットを活かす。特殊な部品は避け、入手容易な標準的な波動歯車や遊星ギア(Green Drive, Inovance等)を採用し、コストパフォーマンスを追求。

Agility Robotics Digit

物流特化型。脚部にハーモニックではなくサイクロイド減速機を採用。倉庫内で頻発する「つまずき」や「急停止」による衝撃でギアが破損するのを防ぐため、耐久性を最優先した設計。

4. コンポーネント別詳細解説とサプライチェーン動向

4.1 モーター(Prime Movers)

現在主流のフレームレスPMSMは、ハウジングを持たないキットである。トレンドはトルク定数(Kt)の最大化で、ラジアルフラックス型で極数を増やし大径化する手法が一般的(Unitreeなど)。
主要メーカー:Kollmorgen(米)、T-Motor/Alva(中)、Inovance/Estun(中)。

4.2 減速機(Reducers)

  • 波動歯車装置: 日本のHarmonic Drive Systemsが圧倒的シェアを持つが、特許切れに伴い中国のLeaderdriveが急追。Tesla等の採用検討は独占崩壊の証左。
  • 遊星ローラースクリュー: 回転を直動に変換。欧州のSKF, Ewellixが強いが、Tesla需要で中国のBest PrecisionやHengliが製造能力を強化中。現在の最大のボトルネック部品。

4.3 センサー(Sensors)

多くの関節には、歪みゲージを用いたトルクセンサーが内蔵されている。これにより位置制御だけでなく「力制御」が可能になり、柔軟な動作を実現する。Tesla等はこれを自社設計している可能性が高い。

5. 性能比較と総括:剛性と柔軟性のトレードオフ

各社の設計思想は、「剛性(Stiffness)」と「柔軟性(Compliance)」のどちらを重視するかで明確に分かれている。

特徴Tesla OptimusUnitree H1Boston Dyn. AtlasAgility Digit
脚部駆動方式リニア (ローラースクリュー)回転 (遊星ギア QDD)回転 (高出力ギア)回転 (サイクロイド)
減速比高い低い (~10:1)高い高い
物理的剛性極めて高い (カチカチ)低い (バネのよう)高い中 (受動的柔軟性)
衝撃耐性極大 (機構的に強い)中 (モーターで吸収)大 (頑丈なギア)極大 (壊れないギア)
制御思想位置制御+力センサトルク制御ハイブリッド効率・耐久性重視
結論と展望:垂直統合への道
2020年代後半に向けて、ヒューマノイドのアクチュエーションは垂直統合へと向かっている。かつてのように「ギアとモーターを別々に買って組み合わせる」時代は終わりつつある。
コストを10万ドル級から2万ドル級に下げるため、TeslaやUnitreeは、モーター・減速機・センサーを不可分な一つの「関節モジュール」として設計し、それを自動車部品サプライチェーンで大量生産するフェーズに入った。
特に中国サプライヤー(Leaderdrive, Sanhua, Best Precisionなど)の台頭は著しく、これがロボット普及の最大のドライバーとなるだろう。

引用文献

  1. News – ANOTHER LOOK AT THE TESLA ROBOT: THE PLANETARY ROLLER SCREW, https://www.kggfa.com/news/another-look-at-the-tesla-robot-the-planetary-roller-screw/
  2. Track Hyper | Zhejiang Sanhua Intelligent Controls: Tesla “T-chain” Bright Card., https://news.futunn.com/en/post/54300009/track-hyper-zhejiang-sanhua-intelligent-controls-tesla-t-chain-bright
  3. Explosive Output to Enhance Jumping Ability: A Variable Reduction Ratio Design Paradigm for Humanoid Robot Knee Joint – MDPI, https://www.mdpi.com/2313-7673/11/1/45
  4. Unitree H1 Humanoid Robot (w/ AI) – Top 3D Shop, https://top3dshop.com/product/unitree-robotics-h1
  5. Hyundai Mobis Forms Strategic Collaboration Framework with Boston Dynamics, https://bostondynamics.com/news/hyundai-mobis-forms-strategic-collaboration-framework-with-boston-dynamics/
  6. Fourier GR-1, https://fftai.com/uploads/upload/files/20240925/a81ec73e48d9f8046b5b673601075e8d.pdf
  7. Figure unveils Figure 02, its second-generation humanoid, setting new standards in AI and robotics – PR Newswire, https://www.prnewswire.com/news-releases/figure-unveils-figure-02-its-second-generation-humanoid-setting-new-standards-in-ai-and-robotics-302214889.html

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